
はじめに
DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める際には、新しいシステムや業務プロセスを導入し、企業全体の変革を図ることが求められます。しかし、いきなり大規模かつ長期的なプロジェクトを組むと、想定以上のコストとリスクが発生し、結果的に導入が難航するケースも多いのが実情です。
そこで近年注目されているのが、アジャイル開発の考え方を取り入れ、まずは小さな範囲から新しい試みを始める「スモールスタート」という手法です。
本記事では、ビッグバン方式との比較、アジャイル導入のメリット、さらには最初に取り組むパイロット案件の選定方法などを中心に解説し、DX導入のハードルを下げるための考え方を紹介します。
ビッグバン方式とアジャイル方式の違い
企業が新システムを導入する際、かつては全社的に一度で切り替える「ビッグバン方式」が一般的でした。これは、導入後の一体感や大きなインパクトが得られる反面、プロジェクト期間が長くなるうえに、一度のリリースで大きなリスクを伴うというデメリットがあります。特にDXのように、変化の早い環境に適応しながら段階的に改善を重ねることが望ましい領域では、ビッグバン方式はリスクとコストが膨大になりかねない手法といえます。
それに対し、アジャイル方式は、短いスパン(スプリント)で開発・運用を回しつつ、都度改善を積み重ねていく手法です。大きな設計や仕様を最初にすべて固めるのではなく、実際に使いながら得たフィードバックを反映し、必要に応じて方向修正ができる点が大きな特徴となります。これによりリスクを分散できるだけでなく、段階的に成果を確認しながら進められるため、プロジェクトが頓挫しにくいというメリットも生まれます。
アジャイル導入のメリット
アジャイル方式の利点として、まず挙げられるのは、企業内部の抵抗感やリスクを最小限に抑えながらシステムを刷新できることです。大掛かりな投資や大人数のプロジェクトチームを一気に動員する必要がなく、予算や人的リソースを抑制しやすいという特徴があります。結果として、導入途中でのやり直しに柔軟に対応でき、新たな技術や知見を取り込みやすくなります。
また、現場の担当者が実際に動くシステムを短いサイクルで試用できるため、リアルタイムなフィードバックを得られることもアジャイル導入の大きな強みです。座学ベースの要件定義だけでは把握しきれない、運用上の細かな問題や使い勝手の改善点を早期に見つけ出すことができるため、最終的に完成度の高いシステムに仕上がる可能性が高まります。こうした「現場の声を反映しながら成長させていく」というプロセスは、DXの本質と相性が良く、企業文化としての変革を加速させる一因にもなります。
さらに、小規模導入で成果が得られた場合、その成功事例をほかの部署や別業務のプロセスへ横展開しやすい点も注目すべきメリットです。成功の事実が可視化されることで社内の理解と協力体制が得やすくなり、段階的にDXを全社へ拡大していく土台が築かれるのです。
スモールスタートで始めるDX導入のステップ
アジャイル方式の考え方を取り入れたDX導入には、いくつかの基本的なステップがあります。まずは大枠のゴールを描きつつ、すべてを一度に変革しようとせずに、短期間で完結する小さなプロジェクトを設定します。この際、「何をどこまで変えるか」を明確に決めすぎる必要はなく、あくまで最初のスモールスタートで試験的に進めたい領域を限定し、そこに重点を置いて新しい仕組みを導入していくのがポイントです。
最初のフェーズでは、業務フローの一部や単一の業務システム、あるいは特定の部署など、影響範囲が比較的小さく、かつ改善の余地が大きい領域を選ぶと成功しやすくなります。導入後は短いスプリントで運用を回し、問題点や改善点を洗い出して次のスプリントに反映するサイクルを実施します。たとえば、1〜2週間程度で目標を設定し、終了後の振り返りで「何が上手くいったのか」「どこに課題があるのか」を明確化して、次のサイクルで解決策を適用する流れを確立していきます。
このようにして段階的に完成度を高めながら、ある程度成果が見えた段階で、ほかの部署や関連業務にも展開を検討します。成果の見えやすい業務や部署から始めることで、社内への説明もしやすくなり、社内全体の意識改革を加速させる効果が期待できます。
最初のパイロット案件選定のポイント
小規模なDX導入の成否を左右するのが、最初に着手するパイロット案件の選定です。ここでは、いきなり企業全体の基幹システムを置き換えようとするのではなく、次のような観点で小さな成功を積み上げるための範囲を選ぶことが望ましいといえます。
1. 問題が顕在化し、改善効果がわかりやすい領域
現在の業務フローが非効率だったり、手作業が多く社員の負担が大きいといった、分かりやすい問題を抱えている領域だと、短期間での改善効果が社内にアピールしやすくなります。
2. 現場担当者の協力度が高い部署
DXの導入に積極的で、改善に協力的なメンバーが集まる部署やチームを選ぶと、導入時の障害や抵抗感が低くなり、スムーズに進められます。
3. 業務規模やシステムが限定的な範囲
影響範囲が大きいシステムや基盤的な部分から手をつけると、失敗時のリスクが拡大し、かえってDX推進の足かせになる可能性があります。まずは規模を限定し、小さく成功させることを第一に考えるほうが得策です。
こうした観点からパイロット案件を選定し、アジャイルな開発・運用を進めることで、早い段階で「DXに本気で取り組めば、ここまで成果が出せる」という事実を示すことができます。これが社内全体のモチベーションを高め、本格的な全社導入へとスムーズにつなげる原動力となるのです。
まとめ
DXを一気に全社へ導入しようとすると、ビッグバン方式の大規模プロジェクトに陥りやすくなり、失敗リスクや高額な投資費用に悩まされるケースが少なくありません。そこで、アジャイル方式を取り入れたスモールスタートを選択することで、短いサイクルで小規模に導入と検証を繰り返しながら、段階的に成果を積み重ねる手法が注目を集めています。
まずは最初のパイロット案件を効果的に選定し、そこに集中して小さく成果を生み出すことで、社内の抵抗感を低減し、DX推進への意欲を高めるきっかけを作ることが可能です。アジャイル開発の特性を生かし、各スプリントの振り返りと改善を重ねることで、企業文化としても変化を受け入れる柔軟性が養われ、やがては全社規模の変革へとつながっていきます。
【無料相談受付中】
当社では、DX導入におけるアジャイル・スモールスタートの具体的な進め方やリスクマネジメント、パイロット案件選定など、さまざまなステップでご支援を行っています。もし「どこから手をつければいいかわからない」「小さくてもまず成果を出したい」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ無料相談をご利用ください。一緒に導入プランを検討し、最初のスモールスタートを成功させるためのサポートをご提供いたします。