DX推進

DX推進リーダー/体制づくりのポイント

はじめに

システム刷新やデータ活用の技術論ばかりに目が向きがちなDXですが、成功の可否を最終的に分けるのは「組織をどう動かすか」という人と体制の問題です。

どれほど優れたロードマップを描いても、現場を束ねるリーダーが不在であったり、部門間連携が機能していなかったりすれば、プロジェクトは途中で頓挫してしまいます。

本稿では、DXを前進させるためのリーダー像と組織体制の在り方を整理し、実務上の推進ポイントを提示します。

この記事の執筆者

クリーヴァ株式会社
代表取締役/CEO
宮崎達也

大手エンターテイメント企業の音楽記信事業にてWebデザイナー、Webシステム開発ディレクションに従事。大手通信キャリア企業で企業の立ち上げからWebコンテンツプラットフォームの開発、Webサービス企画と幅広い業務を遂行。2019.9少数精鋭のWebコンサルティングギルドを通営するクリーヴァ株式会社を設立。



DX推進リーダーに求められる三つの資質

第一に必要なのはビジネス視点とテクノロジー視点を行き来できるバイリンガル能力です。経営目標を技術要件に翻訳し、逆にエンジニアリングの制約を経営層に分かりやすく説明できる人材は、多くの企業で決定的に不足しています。

次に、意思決定の速度を担保する推進力が挙げられます。アジャイル開発で短いサイクルを回すには、課題が出たその瞬間に「進むか戻るか」を判断し、障害物を取り除く力が不可欠です。

最後は、社内外の利害を調整できる交渉力と共感力です。レガシー運用に慣れた現場や、縦割り組織で独自最適を追求してきた各部門を束ね、共通のゴールへ向かわせるには、信頼関係づくりと丁寧な巻き込みが欠かせません。

それに対し、アジャイル方式は、短いスパン(スプリント)で開発・運用を回しつつ、都度改善を積み重ねていく手法です。大きな設計や仕様を最初にすべて固めるのではなく、実際に使いながら得たフィードバックを反映し、必要に応じて方向修正ができる点が大きな特徴となります。これによりリスクを分散できるだけでなく、段階的に成果を確認しながら進められるため、プロジェクトが頓挫しにくいというメリットも生まれます。

推進体制は「三層モデル」で設計する

1. 経営層(Steering Layer)
戦略と投資判断を担う層。DXのゴールと優先順位を示し、ガバナンスを効かせる役割を持つ。

2. DX推進オフィス(Transformation Layer)
プロジェクトのハブとなり、ロードマップ策定・資源配分・KPI管理を行う専門組織。リーダーやPMOが常駐し、各部門横断で課題を解決する。

3. 現場実装チーム(Delivery Layer)
現場の業務知識と開発スキルを組み合わせ、アジャイルに機能追加やデータ分析を行う実働部隊。

この三層が明確に役割分担しつつ、週次・月次のリズムで情報を循環させると、経営から現場までずれのない意思決定が可能になります。

外部パートナーの賢い使い方

DXは“自前主義”にこだわるとスピードが落ちます。特にクラウドネイティブやAI領域は技術の陳腐化が早いため、外部パートナーと共同で成果を出しながら、社内にノウハウを残す「ハイブリッド型」が現実解です。

・初期フェーズ:短期で成果を出すためにコンサルティングやSaaSを活用
・中期フェーズ:共同開発で内製化の種をまき、移管計画を敷く
・長期フェーズ:社内のCoE(Center of Excellence)で横展開と運用最適化を担保

明文化された移管計画(スキルマップ、トレーニングプラン、契約更新条件など)を最初から盛り込み、ブラックボックス化を防ぎます。

推進文化を根付かせる仕組み

単発の成功事例だけでは変革は定着しません。継続改善を習慣化させるために、以下の仕組みを“文化装置”として用意します。

KPI/KGIとOKRの二段構え


短期の数値目標(KPI)だけでなく、変革の方向性を示すOKRを設定し、挑戦的な目標へのチャレンジを奨励する。


シャドーITをあえて“公認”するハッカソン文化


職場の課題を自発的にデジタルで解決したチームには発表の場とリソースを提供し、草の根イノベーションを公式チャネルへ昇華させる。


失敗を共有資産に変えるレトロスペクティブ


スプリントの振り返りを形式化し、「何が学びだったか」をナレッジベースに蓄積。次のチームが同じ失敗を繰り返さないよう循環させる。

成功事例に学ぶ“人と組織”のつくり方

大手製造業A社は、経営直轄のDX室を設けるとともに、現場リーダーを半年間DX室へ出向させる「ローテーション制」を導入しました。

これにより、現場感覚を失わないまま専門知識を蓄積し、元の部署に戻った後は“DXアンバサダー”として第二・第三のプロジェクトを自律的に推進しています。

結果として、第一段階のパイロットラインで得た省人化のノウハウが、18か月で5工場に横展開され、年間3億円規模のコスト削減を実現しました。ポイントは「リーダー育成」と「循環型組織学習」が同時に回る仕掛けを作ったことにあります。

まとめ

DXの技術論は日進月歩ですが、変革を実行に移すのは人と組織の力です。ビジネスとテクノロジーをつなぐリーダーを中心に、経営層・推進オフィス・現場チームが三位一体で動ける体制を築き、外部パートナーを戦略的に活用しながら小さな成功を連鎖させる――それがDXを成功に導く王道です。

組織文化に「学習する仕組み」を組み込めば、変化が加速する時代でも持続的に競争優位を築くことができます。

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