
はじめに
DXの成功例が脚光を浴びる一方、「多額の投資を回収できないままプロジェクトが立ち消えになった」「システムは入ったが現場が使わず棚ざらし」――そんな声も後を絶ちません。
本稿では、実際に起こったDXプロジェクトのつまずきを三つ取り上げ、その内側で何が起きていたのかを検証します。
栄光の裏側に潜む落とし穴を知ることで、自社プロジェクトのリスクを最小化するヒントを掴んでください。
小売A社:全機能一気刷新で「管理負荷の泥沼」に
何が起きたか
老朽化したPOSと在庫システムをクラウドSaaSに置き換える――ここまでは筋書き通りでした。問題は、EC・店舗・会員アプリを一斉に新基盤へ移行する「ビッグバン方式」を選んだこと。数百店舗の売上データ移行に遅延が発生し、切替初日にレジが稼働せず、売上が丸一日止まりました。復旧対応に追われる中、店舗スタッフ用の新UIも研修不足で使われず、発注ミスが続出。導入半年で追加コストは当初見積もりの1.6倍に膨らみました。
根本原因
・試験環境で混雑ピーク時を再現せず、本番で性能不足が顕在化
・店舗側の運用フロー変更を甘く見積もり、教育期間が不足
・障害発生時のバックアップ手順を明確化せず、現場任せにした
製造B社:AI予測モデルが現場にフィットせず「放置資産」へ
何が起きたか
不良品率の削減を狙い、外部ベンダーと協働でAI品質予測モデルを構築。しかし、モデル精度を上げるために追加したセンサーが月次点検を必要とし、保全担当の負荷が倍増。しかも学習データが偏っていたため、実ラインでの予測精度は50%台に低下。「AIの言うとおりに設備を止めると、かえってロスが出る」と現場が判断し、半年でアラート通知を無効化。高価なGPUサーバーも遊休状態に。
根本原因
・予測モデルの前提条件が現場オペレーションと合わず、運用コストを軽視
・データ収集フェーズで異常値のサンプリングが不足し、学習が偏り
・導入後のモデル再学習とサポート契約を後回しにした
サービスC社:部門ごとの「部分最適DX」がスパゲッティ化
何が起きたか
各部門にDX予算を割り振り「自由にPoCを回して良い」というボトムアップ方針を採用。1年後、チャットボット、RPA、ローコードアプリなどツールが乱立し、似た機能のSaaSが複数ライセンス契約される事態に。データ形式・ID管理がバラバラで、システム間連携の追加開発コストが急増。CIO室が統合を試みたが「どのツールを捨てるか」で部門間対立が深刻化し、結局現状追認で固定費だけが残った。
根本原因
・事前に統合アーキテクチャ指針を示さず早い者勝ちで導入を容認
・ガバナンス不在のままSaaS契約が乱立し、ID・データ統制が破綻
・全社PMOが後追いで介入し、コスト算出根拠と撤退基準を持たなかった
共通する「DXの落とし穴」
1. 技術先行で現場運用と乖離
システムが動いても、人が動かなければ定着しない。
2. ガバナンス欠如による二重投資
部門最適が進むほど、後から統合するコストは雪だるま式に増える。
3. スモールスタートの原則を無視
検証フェーズを飛ばし、一気に全体導入すると障害対応が巨大化。
4. ROIよりPoCゴールが目的化
実装後の運用・改善フェーズを設計せず、PoC完了=成功と誤解。
回避のための実践チェックリスト
・切替方式はリスク×影響範囲で4象限評価し、段階移行を基本とする
・AI/IoT導入時は運用負荷”と再学習コストをTCOに組み込む
・全社DX原則(アカウント管理、データ標準、撤退基準)を先に合意
・PoCは運用部門のKPI変化を成果指標にし、ユーザーテストを通過しない限り拡張しない
まとめ
DXの失敗は、最終的に「技術」よりも「人・組織・運用」で起こります。
落とし穴を避けるには、スモールスタートで実証し、現場の運用コストとガバナンスプロセスを盛り込んだ設計を徹底すること。
ゴールはPoC完了ではなく持続的な業務価値の創出です。成功事例を追うだけでなく、失敗事例にこそ学び、多角的なリスクシナリオを描いてから次の一歩を踏み出しましょう。
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