
はじめに
デジタル基盤を整え、パイロットで成果が出はじめると、社内に安堵ムードが漂います。しかし DX の本番はそこからです。
立ち上げフェーズを超えた企業が次に直面するのは、「どうやって改善サイクルを回し続けるか」「運用を誰が担うか」という持続性の課題。本稿では、DX後の継続改善を仕組み化し、変化に強い運用体制を築くポイントを解説します。
“保守運用”を“改善運用”へリネームする
従来の IT 運用は、障害を起こさず安定稼働させることがゴールでした。DX では安定に加えて価値の上乗せが求められます。
具体的には、運用チームを「KPI の守護神」から「KPI の上昇請負人」へ役割転換させること。
たとえば、稼働率 99.9% を維持するだけでなく、ユーザー行動分析から新機能改善案を提起するところまでがチームのミッションになります。この“リネーム”が、改善を日常業務に組み込む第一歩です。
継続改善サイクルを回す3層ギア
モニタリングギア:データを“毎日”見える化
各システムの SLIs(Service Level Indicators)やビジネス KPI を監視ダッシュボードに統合し、異常値をリアルタイム検知。SRE(Site Reliability Engineering)を参考に、SLA 達成度と同じ画面上にエンゲージメント指標や売上指標を並べると、「止まらなければOK」思考から脱却できます。
インサイトギア:数字を“意味”に翻訳
データアナリストと業務オーナーがペアを組み、1 スプリントごとにログを深掘り。数値変化の背後にある顧客行動や業務フローを言語化し、「こう直すと次のスプリントで指標が○%改善する」という仮説をリスト化します。ここが単なる“レポート屋”で終わるか、“提案屋”になるかが分水嶺です。
デリバリーギア:仮説を“機能”へ落とし込む
改善リストから優先度を決め、DevOps チームが短期開発・リリース。インフラは IaC(Infrastructure as Code)、アプリは CI/CD で自動テストを回し、改修サイクルを週単位へ圧縮します。モニタリングギアで結果を即座に検証し、ギアが再び回り始める――この三層が噛み合うと継続改善は加速します。
運用組織を支える3つのロール
Product Owner of Operations(POO)
稼働指標とビジネス指標を束ね、改善バックログの優先順位を決める司令塔。開発部門とビジネス部門を横断する権限を持たせる。
SRE / DevOps エンジニア
インフラ安定とデリバリー速度を両立させる技術担当。IaC・自動化スクリプト・障害対応プロセスを標準化し、夜間対応を減らす。
Data Insight Lead
ダッシュボードを整備し、異常シグナルをビジネス仮説へ翻訳。A/B テスト設計から結果解釈までを担い、POO とともに改善ロードマップを描く。
これら3ロールがスクラムチームや CoE(Center of Excellence)に常駐し、現場部門と日次レベルでコミュニケーションを取ることで、改善が“いつもの仕事”になる文化が根付きます。
コストとガバナンスのバランスを取る
継続改善はスピードを重視するあまり、クラウドリソースや SaaS 契約が膨張しがちです。ここで効くのがFinOpsの考え方。クラウド利用量をリアルタイム計測し、月次で“改善あたりコスト”を見える化して、POO が投資対効果を判断します。また、権限移譲を進めるほど情報セキュリティも重要になるため、Zero Trust と自動監査ログを組み合わせ、速度と統制を両立させる枠組みが不可欠です。
成熟度に応じたロードマップ
フェーズ1:導入直後
KPI ダッシュボード整備/障害対応フロー標準化
フェーズ2:半年〜1年
A/B テスト基盤構築/FinOps・セキュリティ自動化
フェーズ3:1年以降
AI Ops で異常予測/ビジネス KPI と SLO を統合管理
各フェーズで“学習すべきテーマ”を明確にし、組織の成熟度に合わせて運用機能を追加していくと、改善負荷が過剰にならず着実にステップアップできます。
まとめ
DX を「持続可能な競争力」に変える鍵は、完成後の運用を改善のエンジンに昇華させることです。モニタリング・インサイト・デリバリーの三層ギアを回し、POO/SRE/Data Insight Lead が三位一体で組織を牽引する体制を整えれば、環境変化に合わせてサービスを自律的に進化させられます。
DX のゴールは導入ではなく“改善文化が根付いた日常”――今日から運用チームの名刺を書き換え、次のスプリントを改善第一号に設定してみてください。
【無料相談受付中】
「保守運用を改善運用へシフトしたい」「FinOps や SRE を取り入れたいがロードマップが描けない」といったお悩みは、当社の無料相談へ。継続改善ダッシュボードの設計から組織設計、ガバナンス整備まで一気通貫でご支援します。