生成AIを使う会社は86%か、35%か:情報通信白書で読む、日本企業の「使っている」の中身

AIとの付き合い方
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「生成AIを使っている会社は、もう9割近い」という数字と、「まだ3割台」という数字。2026年に公表された調査を読み比べると、どちらも正しく、違いは誰に聞いたかにあります。この記事では、総務省の令和8年版 情報通信白書を中心に、帝国データバンクの調査もあわせて、日本企業の「使っている」の中身を読みます。見えてくるのは、使う人は増えたものの、仕事の進め方を変えるところまでは進んでいない、という姿です。

「生成AIは、もうどの会社も使っているのか」「うちは遅れているのか」。AI の導入の相談を受けるとき、最初にこう聞かれることが増えました。

答えるための材料として、2026年に公表された調査を読みました。中心にしたのは、総務省が2026年7月に公表した令和8年版 情報通信白書です。日本・米国・ドイツ・中国の企業に同じ質問をしているので、日本企業の使い方の特徴が、他の国と比べて見えてきます。

結論を先に書くと、次の3つです。

  • 使う割合は、1年で大きく伸びた。 何らかの業務で生成AIを使っているという回答は、前の年度の55.2%から86.4%に増えた。ただし、この数字は「デジタル化に取り組み始めた会社の管理職」に聞いた数字で、全国の会社を対象にした別の調査では34.5%だった。
  • 使っていても、仕事の進め方は変わっていない会社が多い。 「組織的な取り組みはない」という回答は日本で27.0%、中小企業では45.6%。米国は1.4%だった。業務の進め方そのものを AI 中心に変えたという回答は、どの業務でも1割前後にとどまる。
  • 他の国との差は、使う割合より「仕組み」にある。 社内のデータを生成AIが参照できる仕組みを作っている、導入の前に専門的に審査する体制がある、という回答で、日本は米国や中国の半分ほどだった。

この記事では、まず数字が調査ごとに違う理由を整理し、そのうえで方針、組織の取り組み、使っている業務、他の国との差を順に見ていきます。最後に、業務システムを作る側から見た読み方と、自社の現在地を確かめる問いをまとめます。

使った調査

今回読んだのは、次の2つです。

調査発行公表対象と回答数
令和8年版 情報通信白書(企業向けアンケート)総務省2026年7月日本・米国・ドイツ・中国で、従業員10人以上、2025年までにデジタル化の取り組みを始めた会社に勤める管理職以上の人。日本は515人(大企業353人、中小企業162人)。2026年1〜2月のインターネット調査
生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)帝国データバンク2026年5月全国2万3,349社に調査し、1万312社が回答(回答率44.2%)。2026年3月17〜31日

この記事の数字は、とくに断りがなければ、情報通信白書の本文と、総務省が公開している図表のデータから取っています。調査の対象と回答数は、白書の付注に書かれています。

「使っている」は86%か、35%か:数字が違う理由

最初に、いちばん基本の「生成AIを業務で使っている会社は何割か」を比べます。

調査数字何を数えたか
総務省 情報通信白書86.4%何らかの業務で生成AIを使っていると答えた割合(活用方針の質問で「わからない」と答えた人を除く)
帝国データバンク34.5%生成AIを業務で「非常に活用している」「やや活用している」と答えた会社の割合

同じ2026年の春の調査で、数字に2倍以上の差があります。どちらかが間違っているわけではありません。違いは、主に次の3つです。

  1. 誰に聞いたか。 情報通信白書は、デジタル化の取り組みをすでに始めた会社の、管理職以上の人に聞いています。もともと関心の高い会社の、事情をよく知る人の回答です。帝国データバンクは、全国の会社に広く聞いています。
  2. 何を「使っている」とするか。 情報通信白書は、議事録やメールの作成補助など、いくつかの業務のうち1つでも使っていれば「使っている」に入ります。帝国データバンクは、「あまり活用していない」(13.6%)や「ほとんど活用していない」(23.3%)を、「活用している」に含めていません。
  3. 何を単位に数えたか。 情報通信白書は回答した人の数、帝国データバンクは会社の数です。

なお、IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2026」では、生成AIを導入している会社は44.0%でした。この調査の読み方は、DX はどこまで進んだかにまとめています。

調査の数字を社内で使うときは、どの調査の、どの定義の数字かを必ず添えてください。「86%の会社が使っている」とだけ書くと、全国の会社のほとんどが使っているように読めてしまいます。

方針を決める会社は、1年で増えた

ここからは、情報通信白書の数字を見ていきます。まず、会社として生成AIをどう扱うかの方針です。

「積極的に活用する方針である」と「活用する領域を限定して利用する方針である」を合わせた割合は、日本で68.9%でした。前の年度の調査では49.7%だったので、1年で約19ポイント増えたことになります。

方針日本(2025年度)日本(2024年度)米国ドイツ中国
積極的に活用する30.1%23.7%34.6%40.5%49.8%
領域を限定して利用する38.8%26.0%48.2%41.7%45.6%
利用を禁止している3.5%4.3%9.1%7.8%1.9%
方針を明確に定めていない20.2%31.8%7.8%9.7%2.3%

(総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-2-1-1 のデータより)

伸びが大きかったのは、中小企業です。活用する方針の割合は、中小企業で前の年度の34.3%から58.1%に、大企業で55.7%から74.0%に増えました。中小企業で「方針を明確に定めていない」は、47.6%から31.5%に減っています。

それでも、米国(82.8%)、ドイツ(82.2%)、中国(95.4%)と比べると、日本はまだ低い水準です。白書も「日本は引き続き低い結果となった」と書いています。

使っていても、「組織としての取り組みはない」が3割

方針を決めた会社が増えても、組織として取り組んでいるかは別の話です。情報通信白書は、生成AIで業務を変える取り組みの状況を聞いています(「利用を禁止している」と答えた人を除く)。

取り組みの状況日本大企業中小企業米国中国
全社横断で事業の変革に取り組んでいる21.5%26.1%11.9%35.6%40.9%
部署ごとに業務の最適化に取り組んでいる32.4%35.0%26.9%40.6%32.0%
個人の生産性の向上に組織で取り組んでいる11.7%12.2%10.6%22.1%23.8%
組織的な取り組みはない27.0%18.1%45.6%1.4%2.6%

(図表Ⅰ-2-1-3 のデータより)

日本で「組織的な取り組みはない」は27.0%でした。米国は1.4%、ドイツは4.9%、中国は2.6%です。白書はこの差を「顕著に高い」と書いています。中小企業では45.6%と、ほぼ半分に上ります。

使っている人はいても、会社として「どの業務を、どう変えるか」を決めていない。各自がそれぞれの判断で使っている、という会社が少なくないと読めます。

取り組んでいる会社では、何をしているか

組織として取り組んでいる会社に、戦略や方針の状況を聞いた結果では、日本で多かったのは「経営戦略のなかで AI 活用の目的や方針が明示されている」(36.8%)と「経営幹部が AI 活用の意義について社内外に情報発信している」(35.9%)でした。

他の国では、これに加えて「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」と「取組を推進する部署や責任者が明確になっている」が目立ちます。日本ではどちらも27.9%ですが、米国では48.9%と39.9%、中国では55.3%と55.6%でした。

お金と人の計画にも差があります。「AI導入のための投資計画が具体化されている」は日本で22.7%、米国で35.1%、中国で45.1%でした。「人材のリスキリングや配置転換の方針が明示されている」は、日本で10.4%にとどまります。

目的は示しているが、誰が何をいつまでにするか、そのためにいくら使い、誰を育てるかまでは決まっていない。日本の数字からは、そんな姿が見えます。

中小企業に限ると、最も多かったのは「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」(32.9%)でした。白書は、中小企業の AI 活用では「トップダウンの関与がキーポイントとなっていることがうかがえる」と書いています。中小企業の回答者は162人で、この質問はその一部に聞いたものなので、数字の差は幅をもって見る必要があります。それでも、経営者が「この業務で、ここまでやる」と決めることの大切さは、中小企業の相談を受けていても実感するところです。

何に使っているか:効果を感じるのは、議事録とメール

次に、業務ごとの使い方です。情報通信白書は、13の業務について、使い方の深さを3段階に分けて聞いています。

業務業務の進め方が AI 中心に変わった部署の特定業務で使っている個人の作業の効率化で使っている未導入
議事録・メール作成補助11.3%24.7%35.2%17.5%
営業・販売9.5%22.9%27.2%20.5%
社内ヘルプデスク11.9%20.7%18.3%28.8%
社内システム開発・運用8.0%24.5%17.9%26.6%
経理・財務9.3%19.5%15.9%30.8%
人事5.6%20.3%15.1%35.4%

(図表Ⅰ-2-1-7 のデータから一部の業務を抜き出して掲載)

使っている割合が最も高いのは「議事録・メール作成補助」で、約7割です。続いて「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割でした。

ここで見てほしいのは、左の列です。業務の進め方そのものが AI 中心に変わったという回答は、どの業務でも1割前後にとどまります。使い方の中心は「個人の作業の効率化」と「部署の一部の業務」です。

効果を感じるかの質問でも、同じ形が見えます。効果を感じると答えた割合は、「議事録・メール作成補助」が72.3%と、他の業務を大きく引き離しています。次の「社内ヘルプデスク」は42.7%、「研究・商品開発」は39.1%でした。「社内システム開発・運用」は、使っているという回答が約5割あるのに対し、効果を感じるという回答は26.3%です。

帝国データバンクの調査でも、活用している会社の主な用途は「文章の作成・要約・校正」が最も多く、「情報収集」「企画立案時のアイデア出し」が続きました。調査の報告は、生成AIが「業務判断そのものの代替というより、情報整理や文章化など、判断の手前にある業務の補助」として使われていると書いています。

プログラムを書く仕事での使い方は、まだ限られています。帝国データバンクの調査で、主な用途を「コード生成などのプログラミング支援」と答えた会社は5.9%でした。業界別では「サービス」が13.3%と高く、業種による差もあります。

文章を書く、まとめる、調べるといった、一人で完結する作業では効果が出やすい。一方で、複数の人や部署、他のシステムが関わる業務では、使ってはいても効果を感じるところまでは届いていない。二つの調査は、同じ方向を指しています。

他の国との差は、使う割合より「仕組み」にある

使っている割合だけを見ると、日本の86.4%は、米国(90.9%)、ドイツ(91.6%)、中国(98.1%)との差が縮まりました。大きな差が残っているのは、使うための仕組みです。

社内のデータとつなぐ仕組み

生成AIで業務を変えるための環境づくりを聞いた質問では、次の差がありました。

環境づくりの状況日本米国ドイツ中国
必要なスキルやノウハウを学ぶ環境がある39.9%62.7%60.4%71.7%
予算や人員が確保されている37.4%50.0%41.5%50.2%
生成AIに社内データを学習させたり、参照できるデータベースを作ったりしている24.5%57.2%54.4%73.0%
社員が生成AIを使ったアプリやエージェントを作れる技術環境がある15.3%22.1%27.4%31.1%

(図表Ⅰ-2-1-5 のデータより)

差が最も大きいのは、社内のデータとつなぐ仕組みです。日本は24.5%で、他の3か国は5割を超えています。白書もこの点を、日本より「大幅に高い」と書いています。

日本の中で見ると、社内データとつなぐ仕組みを作っているという回答は、大企業で26.7%、中小企業で17.7%でした。一方で、「専門家によるアドバイスやサポート体制がある」は、中小企業が27.8%で、大企業の20.2%を上回っています。社内に専門の人を置きにくい中小企業ほど、外の専門家の力を借りて進めている様子がうかがえます。

生成AIは、インターネット上の一般的な知識で答えるだけなら、契約してすぐに使えます。けれども、自社の規程、過去の見積もり、製品の仕様、お客さまとのやり取りの記録を踏まえて答えさせるには、社内のデータを整理し、生成AIから参照できるようにする仕組みが要ります。議事録やメールでは効果が出ても、それ以外の業務で効果が出にくい理由の一つは、ここにあると考えています。

社内の資料を探せるようにする仕組みを作る前に決めることは、「社内の資料が探せない」を減らすナレッジ検索にまとめました。

導入前の審査と、導入後の評価

もう一つの差は、リスクへの備え方です。リスク対策の取り組みを聞いた質問では、日本で最も多かったのは「全社的な指針やガイドラインを整備している」(41.1%)でした。この項目は、米国(50.4%)よりは低いものの、ドイツ(39.6%)や中国(40.3%)とほぼ同じです。

リスク対策の取り組み日本米国ドイツ中国
全社的な指針やガイドラインを整備している41.1%50.4%39.6%40.3%
推進する部署や責任者が明確になっている35.9%44.9%49.6%58.4%
企画・導入の段階で、専門的な知見から審査する体制がある26.1%52.5%38.1%59.0%
導入後、定期的な評価・検証が行われている29.1%45.7%42.2%51.9%
入力したデータが学習に使われない仕組みを入れている19.9%32.2%34.1%47.8%

(図表Ⅰ-2-1-9 のデータより)

差が大きいのは、導入の前に審査する体制と、導入の後に評価する体制です。日本は26.1%と29.1%で、米国や中国の半分ほどでした。

白書は、この差の背景を次のように見ています。他の国では、議事録やメールのような社内で完結する使い方にとどまらず、お客さま向けの製品やサービスに生成AIを使うことが積極的に行われていて、そのために事前の審査や事後の評価の体制が整いつつある、という見方です。

ガイドラインは、社員が守るルールです。審査と評価は、仕組みを作る側が守る手順です。社内で使うだけならガイドラインで足りる場面も多いのですが、生成AIを自社の業務システムやサービスに組み込むなら、作る前に何を確かめ、作った後に何を測るかを決めておく必要があります。

懸念されるリスクについての質問では、日本で最も多かったのが「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」で、「出力結果の精度」「著作権等の権利の侵害」が続きました。社内で生成AIを安全に使うための設定とルールは、Claude Code を会社で安全に使うにまとめています。

効果のとらえ方:日本は「効率化」、他の国は「質の向上」

生成AIを使うことで何が起きると思うか、という質問の答えにも、違いが出ました。

日本で最も多かったのは「作業時間の短縮などによる業務の効率化」で、61.6%でした。次の「品質管理の精度向上やパーソナライズなどによる製品・サービスの質の向上」(32.2%)や「人員不足の解消」(26.8%)を大きく上回っています。

一方、米国・ドイツ・中国では、「製品・サービスの質の向上」が最も多く、「業務の効率化」がそれに続きました。その次に多かったのが、「技術継承やノウハウ共有の円滑化などによる従業員の専門的な経験・能力不足の緩和」です。ベテランの知識を、社内の誰もが引き出せるようにする使い方で、社内のデータとつなぐ仕組みがあって初めてできることです。白書は、日本では生成AIが業務の効率化の文脈でとらえられ、他の国では「もう一歩踏み込み」、製品やサービスの質の向上や生産性の向上の文脈でとらえられている可能性がある、と書いています。

効率化は大切な成果です。ただ、効率化だけを目的にすると、使い方は「一人の作業を速くする」ところで止まりやすくなります。前の節で見た、使い方の中心が個人の効率化にとどまっているという結果とも、つながって見えます。

使っている会社に出ている課題

帝国データバンクの調査は、生成AIの活用で起きた悪影響やトラブルと、活用についての懸念や課題も聞いています。

先に、効果の実感です。活用している会社の86.7%が「効果が出ている」と答え、「大いに効果が出ている」は小規模企業で29.7%と、大企業の20.8%を上回りました。人の少ない会社ほど、文章づくりや情報の整理が速くなった効果を感じやすいのかもしれません。

活用している会社に聞いた悪影響やトラブルでは、「悪影響やトラブルはない」が67.7%で最も多く、出力の誤りによるトラブル(1.3%)や情報の流出(0.7%)は少数でした。一方で、「AIを使いこなせる社員と使いこなせない社員の間で、能力や成果の格差が拡大した」が18.8%あり、大企業では23.6%でした。

懸念や課題(3つまでの複数回答)では、次の順でした。

  1. 情報の正確性:50.4%
  2. 専門人材・ノウハウ不足:41.3%
  3. 生成AIを活用すべき業務の範囲:40.0%
  4. 情報漏洩のリスク:33.5%
  5. トラブル時の責任所在などのルール整備:25.5%

報告は、生成AIが「導入そのものの有効性よりも、使いこなすための仕組みづくりが成果を左右する段階に入っている」とまとめています。「活用すべき業務の範囲」を課題に挙げる会社が4割あること、使いこなしの差が広がっていることは、情報通信白書で見た「組織的な取り組みはない」という回答と、同じ問題の別の面だと読めます。

業務システムを作る側から見た、この数字の読み方

ここからは、業務システムの開発を仕事にしている立場からの見方です。

二つの調査を並べると、日本企業の生成AIは、「一人ひとりが使う道具」としては広がったが、「会社の仕事の進め方」にはまだ組み込まれていない、という段階にあります。

一人で使う道具なら、契約して配れば始められます。仕事の進め方に組み込むには、少なくとも次の3つが要ります。

  1. 業務の流れを決める。 どの業務の、どの手順で生成AIを使い、その結果を誰が確かめて、次の手順に渡すのか。今の業務の流れを図にしないと、どこに入れるかは決められません。進め方は、業務の流れを図にするにまとめています。
  2. 社内のデータとつなぐ。 規程、過去の案件、製品の情報、お客さまとのやり取り。生成AIに参照させたいデータが、どこに、どんな形で、誰の権限で置かれているかを整理し、必要に応じて今のシステムとつなぐ仕組みを作ります。日本で24.5%にとどまっていた部分です。
  3. 作る前に審査し、作った後に評価する。 何を入力してよいか、出力を誰が確かめるか、間違えたときにどう止めるか。そして、入れた後に何の数字で効果を測るか。日本で3割に届いていなかった部分です。

この3つは、ツールを選ぶだけでは決まりません。業務を知っている人と、システムを作れる人が、一緒に決める必要があります。とくに2と3は、今動いている業務システムやデータベースの構造、権限の設計、ログの取り方にかかわるので、社内の情報システムの担当者や、システムを作った開発会社の知見が欠かせません。

白書には、社員が自分で生成AIのアプリやエージェントを作れる技術環境があるか、という質問もありました。日本は15.3%で、他の国よりも低い数字です。社員が自分で小さな道具を作れる環境は、現場の工夫を早く形にするうえで役に立ちます。ただ、社員が作った道具が、社内のデータや業務システムにつながり、お客さまに影響する業務に使われるようになったら、その段階で審査と評価の仕組みに乗せる必要があります。小さく試すことと、業務として安全に使い続けることは、別の準備が要るからです。

立場ごとに、この数字から考えたいこと

同じ数字でも、読む人の立場によって、次にすることは変わります。

中小企業の経営者は、「組織的な取り組みはない」が中小企業で45.6%だったことを出発点にしてください。白書が「トップダウンの関与がキーポイント」と書いているように、最初に要るのは、大きな計画ではなく、経営者が「この業務で、ここまでやる」と決めることです。毎日時間がかかっている業務を1つ選び、そこで生成AIを使う手順を決めるところから始めれば十分です。

情報システムや DX の担当者は、自社が「個人の効率化」の段階にいるのか、「部署の業務」まで進んでいるのかを確かめてください。議事録やメールで効果が出ているなら、次の候補は、社内のデータを参照できれば効果が出る業務です。社内のよくある問い合わせへの回答や、過去の資料を探す業務がその例です。

すでに生成AIを製品やサービスに組み込み始めている会社は、審査と評価の手順が決まっているかを確かめてください。日本で導入前の審査の体制があるのは26.1%、導入後の定期的な評価は29.1%でした。ガイドラインを作ったところで止まっていないか、が確かめどころです。

自社の現在地を確かめる6つの問い

調査の数字と自社を比べる前に、次の6つを社内で確かめてみてください。どれも、今回の調査で日本と他の国、大企業と中小企業の差が大きかった項目です。

  1. 会社としての方針があるか。 「積極的に使う」「領域を限定して使う」「使わない」のどれなのかを、社員が答えられるか。
  2. 組織として取り組んでいるか。 各自の判断で使っているだけになっていないか。取り組むなら、全社か、部署ごとか。
  3. 誰が、何を、いつまでにするかが決まっているか。 推進する人と、達成の目安が決まっているか。
  4. どの業務で使うかが決まっているか。 一人で完結する作業の次に、どの業務に広げるか。
  5. 社内のデータを参照させる必要がある業務はどれか。 そのデータは、どこに、どんな形で置かれているか。
  6. 作る前の審査と、作った後の評価の手順があるか。 入力してよい情報、出力を確かめる人、効果を測る数字を決めているか。

1と2が「いいえ」なら、まずは方針と担当者を決めることからです。4から6が「いいえ」なら、業務の流れとデータの整理から始めるのが近道です。

調査の数字を、社内の説明に使うときは

生成AIの導入を社内で提案するとき、こうした調査の数字を使う場面も多いと思います。そのときは、次の4つを添えておくと、数字がひとり歩きしません。

  • 調査の名前と、対象:「総務省『令和8年版 情報通信白書』(デジタル化に取り組み始めた会社の管理職515人)」のように、誰に聞いた数字かを書く。今回見たように、対象が違うと数字は2倍以上変わる。
  • 何を数えた数字か:「使っている」が、1つの業務で試しに使っている場合を含むのかどうか。
  • 自社に近い区分の数字:全体の平均ではなく、会社の大きさや業種が近い区分の数字を使う。帝国データバンクの調査では、活用している割合は従業員1,000人超で63.6%、5人以下で29.6%だった。
  • 自社の数字と並べる:調査の数字だけでは、「では自社はどうか」に答えられない。自社で生成AIを使っている人の数や、使っている業務の数を横に置く。

調査を読むときの注意

最後に、今回の数字を使うときの注意を書いておきます。

  • 情報通信白書の回答者は、関心の高い会社の管理職。 対象は「2025年までにデジタル化の取り組みを始めた会社」に勤める管理職以上の人です。全国の会社の平均ではありません。
  • 回答は人の数で、会社の数ではない。 同じ会社の複数の人が答えている可能性もあります。
  • 中小企業の回答は162人。 一部の人にだけ聞いた質問では、さらに少なくなります。大企業と中小企業の数字の差は、幅をもって見る必要があります。
  • 大企業と中小企業の分け方が、調査ごとに違う。 情報通信白書は、業種ごとに従業員300人(卸売・小売、サービスなどは100人)を境にしています。帝国データバンクの区分とは同じではないので、「中小企業」の数字をそのまま比べることはできません。
  • 質問ごとに、答えた人の範囲が違う。 使っている割合は「わからない」と答えた人を、組織の取り組みは「利用を禁止している」と答えた人を除いています。戦略や方針の質問は、「組織的な取り組みはない」「わからない」と答えた人を除いています。
  • 自己評価の数字が多い。 「効果を感じる」は、回答した人の判断です。

おわりに

二つの調査を読むと、日本企業の生成AIは、「使うかどうか」の段階を越えつつあります。いま問われているのは、一人ひとりの道具を、会社の仕事の進め方にどう組み込むかです。

他の国との差は、使う人の割合ではなく、社内のデータとつなぐ仕組み、作る前の審査、作った後の評価にありました。どれも、業務の流れと、今動いているシステムを知らなければ決められないものです。

クリーヴァでは、生成AIをどの業務に入れるかを決めるところから、社内のデータや今のシステムとつなぐ仕組みづくり、使い始めた後の見直しまで、ご相談をお受けしています。業務の棚卸しの段階からでも、お気軽にご相談ください。

宮﨑 達也

この記事を書いた人・監修

宮﨑 達也

クリーヴァ株式会社 代表

現場で働く人が、本来向き合うべき仕事に集中できる「仕組み」づくりを支援している。業務の整理から設計・開発、公開後の改善まで伴走し、AI で自社のシステムをつくる企業を支える「せんせいAI」を提供している。

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